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咲くアヤメ、舞うホタル(2024年5月)

厳島湿生公園近くの葛川沿いの一角で、5月初旬のごく短い期間、アヤメが咲き誇ります。
本当に盛りは数日なので、「咲いている」と聞いて、連休明けで、まごついていると、見られないという年が何回かありました。

菖蒲色と言われる以上に、新緑に映える深い青を宿したこのアヤメは、カサスゲの会が、厳島湿生公園の保全の一環として、休耕地を活用して育ててきたものです。

カサスゲの会は、厳島湿生公園を主なフィールドに、町内外で植物や野鳥の自然観察を続ける傍ら、園内の植物保全活動のボランティアの会を発足し、月一回、このアヤメのお世話と並行して、東屋周辺に秋の七草を増やしたり、さまざまな取り組みをしてこられました。

株分けされたアヤメは、一列が二列に、二列が三列にと次第に増えていきました。
草取りや植え付けは本当に丁寧で、わたしも一緒に加わりながら、熱心な姿に驚嘆しました。

カサスゲの会の発足から19年、自然観察が休止になっても、保全活動を続けられました。
会員の高齢化もあって、今回のアヤメが終わるころ、活動に一区切りつけられます。

竹灯篭の夕べの前後、厳島はホタルの名所にもなります。
8年前に刊行されたシゲタサヤカさんの「神奈川県民ジモトかるた」(講談社)で中井町は、ホタルを仲良く眺める人々が描かれました。

平成13年の厳島湿生公園開園時には絶えていたホタルを、昔の風景を復活させようと、厳島ホタルの会が結成され、養殖が始まりました。
最も長く続けられたのは尾上庄司さんです。産み付けられた卵を採集し、夏場にふ化した後は、暑さとの格闘が始まります。
水温を調整し水流を確保した水槽で、幼虫が唯一食べるカワニナを与えながら、2月半ばの放流まで、目の離せない期間が続きます。
わたしも一時期手伝いましたが、その根気のいる作業には驚かされました。

もう4年前の4月になります。尾上さんは残念ながら亡くなられました。
その年の5月、ホタルは飛翔しました。
いま厳島を舞うホタルは、数こそ少ないのですが、尾上さんはじめ人々の積み重ねが生んだ、天然です。

初蛍養ひし人覚え飛ぶ

こうした先達の尽力を覚えながら、舞うホタル、咲くアヤメを楽しみ、また尽力するひとりになれたらとひそかに願います。